column

コラム

くちびるに歌を

夏の楽しみといえば、仕事の後の冷たい一杯。コロナによって、仕事後の風景はずいぶん変わりました。戻りつつあるとはいえ、気が置けない職場の人や友人たちとの、飲食は勿論のこと、カラオケで歌う機会もめっきり減ったのではないでしょうか。歌う楽しみを取り巻く環境はコロナ以降大きく変化しました。店舗の感染対策は強化され、イベントの人数制限も緩和されていますが、舞台のアーチストと観客が共に歌うことは難しいようです。何より、楽しむ側の他者と一緒に歌うことへの抵抗は強いのかもしれません。歌詞を共有し緩急強弱を共に体感する共鳴の快さの体験減少は寂しい限りです。

労働歌という歌があります。作業歌や労作歌ともいわれ、労働の際に歌われます。ニシン漁のソーラン節のように多人数が呼吸を合わせて掛け声のように歌われ、作業の進行を助け士気を高めたり、田植え唄や木遣りなど作業時だけでなく作業の合間にも歌われる、疲れを癒し、仕事を楽しむ歌でもあります。緊張や疲労を伴う仕事場で、共に歌うことを通じて、声を出す、大きく深く息をする、体を緩める、節回しを楽しむ、快い気分を味わう…。歌を歌い聞きながら、歌のあるその時間に専心する。理にかなったリフレッシュのあり方であり、先人の知恵に脱帽の思いです。

労働歌は職場で歌われる歌です。カラオケやコンサートのようなオフタイムのリフレッシュではありません。働く人であれば、休日を除いて、起きている時間の大半は仕事の場所で過ごします。どんな職場環境であれ、緊張の続く状況では、体は硬くなり、呼吸は浅い状態であることが多いと思われます。加えてマスク。長い働く時間が、ずっと息詰まる状態になってはいませんか。

職場で「歌」は難しいかもしれませんが、先人の労働歌は、オンタイムのご自身の仕事場でのリフレッシュ方法を考えるヒントになりそうです。歌のように、深くゆっくり息をする、声を出す、力を抜く…そうした身体を緩めるアクションで、心も自然に緩んでいきます。また、歌のように、短時間でも、五感を快く刺激し、その時間や得られる心地よさに傾注し味わうことができれば、随分気分が変わるでしょう。働く時間のリフレッシュが、その後のいい仕事に繋がるのではないでしょうか。

(御池メンタルサポートセンター 臨床心理士 岸田敬子)