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コラム

聴覚感性を磨く

皆さんの一番好きな音は何ですか?朝の小鳥のさえずり、通勤時に聴くお気に入りの曲、それとも、おかえり!という優しい声でしょうか。

インターネットが発達してからというもの、コミュニケーションの方法が電子メールやSNSといった視覚によるものが多くなり、直接話をする機会が減りました。一方、街には音が溢れ、家の中では一日中テレビの音や家電製品の指示音が鳴り、知らず知らずのうちに「音を無意識に遮断する能力」がどんどん強化されています。こういった時代の変化は人々を音に対して無頓着にさせているように感じられます。

少し立ち止まって「音」に意識を向けてみませんか。時に音は言葉を凌駕(りょうが)します。どんな言葉よりも好きな音楽や親しい人の声に癒された経験があるのではないでしょうか。言葉を飛び越えて心に染み込んでくる音があります。聴覚は大脳辺縁系に直結しているため、「感情」に直接訴えかけることができるからです。脳の反応速度は視覚より聴覚からの刺激の方が速いとも言われています。また、人は言葉では伝えきれない感情を、声(音)を使って表現しています。声のトーンやスピード、抑揚、そして時には足音などその人がたてる音が伴って微妙な感情が伝わってきます。

ここでひとつ、聴覚の感度を上げる練習を紹介しましょう。まず自分の好きな音楽をかけ、いつも聴いている音量で聴きます。そして、例えば普段25の音量で聴いているのであれば、20にして10分間、15にして10分間、と少しずつ、微かに聞こえる音量になるまで絞っていきます。もう限界、というところで止め、しばらく集中して大好きな音楽に耳を傾けてください。その後、外に出て街の音を聴いてみましょう。今まで気づかなかった音がたくさん聞こえてくるのではないでしょうか。そして、音から何かを感じとるように心を傾けてみてください。新たな発見があるはずです。自分の一番好きな音もこれまでとは違って聞こえてくるかもしれませんね。

聴覚の感性を磨くことは、円滑なコミュニケーションの助けにもなります。本当の「聞き上手」は、相手の声やその人がたてる音にもしっかり耳を傾け、繊細な感情の変化を感じとることができます。マスクで表情が読み取りにくい今、特に大切なことかもしれません。

 

(御池メンタルサポートセンター 産業カウンセラー 菅原 由佳)