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コラム

冠辞のつく季節

早速ですが、質問です。「〇〇の秋」 。 〇〇 として、 何を一番初めに思い浮かべられましたか?

秋は冠辞の多い季節です。冠辞とは、枕詞のように語の前に置かれて、その語を修飾する言葉を言います。「〇〇の秋」であれば、天高く馬肥ゆる秋、食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、芸術の秋、行楽の秋、実りの秋、収穫の秋、紅葉の秋、感傷の秋…辞書に見るだけでも数多く、いろいろな秋があります。

秋は季節から連想することが多いのでしょうか。他の季節は、秋ほど、冠辞をつけた表現をしないように思います。暑い夏が終わり寒い冬にな
るまでの間の、気候の良い季節。好きなことや 、 やってみたいことへの想いや意欲が湧いてくるのかもしれ ません。

〇〇 の秋 を考えながら気付くことがありました。働く方とのカウンセリングで、多忙でストレスフルな日常を過ごしながらも、元気に仕事をされておられる方によくお会いします。「健康のために工夫し留意されていることは?」と秘訣 (ひけつ) をお伺いする時、その返答にこの冠辞に関連することが多いのです。例えば、よく食べる、よく寝る、カラオケで歌う、映画を見に行く、友人とランチ、ランニング、少年スポーツに関わる、推し活する… 。

お聞きした「秘訣」は、カウンセリングの文脈で、オフタイムのリフレッシュ内容として話される ことが多く、その方が生活の中で大切にされ価値を 置いて おられることが、気分転換やストレスの緩和、働く意欲に つな がっているように感じます。それらはまた、外から見てわかる尺度(例えば、肩書や年収、他者から見える仕事や家庭での役割など)で定め、 価値づけした「自分」のことではなく、ある場所で、ある時に、自分のみが「うん、これが私」と感じられるような、独自性のある「自分」のことのように思うのです。こうした自分ならではの大切な「自分」が存在すること、「自分」にとってかけがえのない場所や時間を持っていることが、きっとその方 の生活の営みを支えているように思えます。

再度「〇〇の秋」、何でも何個でも長くなっても OK です。どんな秋を思い浮かべられ、どんなイメージが広がりましたか? 今年の秋、いい季節になりますように。そして、その〇〇が、ご自身の仕事のある生活の潤いや楽しさにつながりますように。

(御池メンタルサポートセンター 臨床心理士 岸田敬子)