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コラム

転換期のストレスへの対応と備え

少子高齢化、平均寿命の伸長、定年制度の見直しなど、「60歳で仕事からリタイアする人生設計・生活設計」は、以前より少なくなってきているようです。私が担当している相談場面でも、30歳前後の方のキャリアチェンジ(転職)に関する相談はこれまでも少なくありませんでしたが、最近では50歳を過ぎて今後のキャリア設計に関するご相談も増えてきたように感じます。ご自身が抱いている仕事に対する理想的な働き方だけでなく、家事や子育て、介護などの家庭環境を重要視されるということもあるでしょう。年齢を重ねるにつれて知識や経験・技術は増加するものの、体力的な低下や健康状況が懸念され、思い通りにならないことも考えられます。

このような転職や退職、再雇用、働き方の変化といったキャリア問題は、収入などの現実的な面もあり大きなストレス(不安要素)となりうる一方で、職業に対する見つめ直しを行う良い機会なのかもしれません。ナンシー・K・シュロスバーグは、転職や結婚、病気と言った人生の転機(トランジション)への適応を左右する要因「4つのS」として、①Situation(状況):その転機が自分にとってどんな意味を持つのか②Self(自己):自分の感情の動き③Support(支援):どんな支援が得られるのか④Strategy(戦略):乗り越えるための有効な手段―の4項目を挙げています。日頃から自身の状況の見つめ直しを心掛けることは、予期せぬ転機が訪れた際の対応力を向上させ、過度なストレスを減らし、そしてよりよい決断への一助となることが期待されます。また、「組織内キャリア発達理論」の提唱者であるエドガー・H・シャインは、「外的キャリア:組織内での地位や実績、金銭的報酬」だけでなく、「内的キャリア:仕事に対する自分なりの意味付け」にも注目しています。どんなことに生きがいや働きがいを感じるかなど、自分のモチベーションを再認識することによって、困難なことにも向き合おうとする気持ちが見出しやすくなるかもしれません。

このような見つめ直しは「転機への備え」のためだけに必要なものだと考えると身近には感じにくいと思います。しかし、日常のストレス対処力向上にも繋がるものと捉えれば、抵抗感が少なくなるのではないでしょうか。一つでも多くのストレス対処方法を備え、普段から活用し実践していきたいものです。

(御池メンタルサポートセンター 臨床心理士 松尾哲朗)