現代社会、特にビジネスシーンでは、感情的な振る舞いは、“よくないこと”として認識されています。みなさんも「こんなことで怒るなんてみっともない」「クヨクヨしていてもダメだ」などと自分に言い聞かせて仕事を乗り切った経験があるのではないでしょうか。
私たちは、社会経験を積む中で、ネガティブな感情を“不要なもの”として「無視する対処」により、なかったことにするスキルを自然に習得していきます。たとえば、仕事で嫌なことがあれば、わざと他の仕事を忙しくして考えないようにする、買い物で気晴らしするなど、みなさんにも得意なパターンがあるはずです。
「無視する対処」というスキルは、苦しさや怒り、不安などを軽減してくれるため、優れたスキルといえるでしょう。しかし、その効果は、一時的あるいは限定的なものであり、注意が必要です。とりわけ、職場や家庭など身近な環境で起こった問題や時間の経過では解決しない問題の場合、あまり効果は期待できません。このような場合は、むしろネガティブな感情との付き合い方の工夫が必要になります。
ネガティブな感情と付き合うコツは、その感情を“不要なもの”とせず、一旦受け容れてあげることです。ここでひとつ、気持ちの整理がつかない時に試していただきたいワークをご紹介します。下記の①〜⑤のステップを順番に進めてみてください。①軽く目を閉じ、肩の力を抜いてリラックスした体勢になる②ゆっくり深呼吸を繰り返す(空気が鼻から出入りし、肺やお腹が動くのを感じましょう)③湧いてきた感情に名前をつける(例:〜への怒り、〜への不安)④その感情に対して「私は(③)を感じている」と一歩下がって表現する。⑤その感情の存在を認め、追い払おうとせず、心と身体の中に居場所を作る(礼節をもって大切なお客様を迎え入れるように感情を受け容れ、しばらくの間、心と身体の中でくつろぐことを許しましょう)
自分の感情に気づき、受け容れることができるようになると、効果的な行動が増えると言われています。このワークは、商談やプレゼンの直前など緊張が高まる場面にも有効ですので、まずは、お仕事の隙間時間や通勤の道中、入浴時などに試してみてください。「感じ過ぎず、無視しない」を合言葉にネガティブな感情とうまく付き合っていきましょう。
(御池メンタルサポートセンター 臨床心理士 浦野 幸一郎)