「メタ認知」とは、アメリカの心理学者ジョン・H・フラベルが提唱した概念で、「自分の認知を認知すること」とされています。主に教育分野で使われてきましたが、最近はビジネス分野でも注目され始めました。
まず「認知」とは自分の考えや感情、記憶などを指し、「メタ」は「高次の」という意味です。つまり「自身のあり方が全体にどう影響し、何が起こっているかを広く俯瞰(ふかん)する能力」だといえます。これが高ければ、人や物事に対し冷静さや柔軟性を持って適切な距離を保てるようになり、協調性や問題解決能力が上がるといわれています。
少し難しくなりましたが、日常の場面では例えば苦手な課題を前にプレッシャーがかかっている状態、パワハラ被害の真っ最中、パートナーとの間になぜか険悪なムード漂う瞬間等々。そんな場面での自分の思考や感情は、自覚はなくとも少なからず周囲に影響を与えているものです。周りを見渡す余裕がなくて、ともすればうっかり感情的になって後悔したり、まずい状況に陥ったりした経験は誰しもあるものでしょう。そんな時メタ認知できれば、自分の感情や頭をよぎる考えとその場の状況を瞬時に察知して切り替え、適切に対処できるのです。プレッシャーに巻き込まれず自分なりのベストを尽くす、過度な叱責を受け流し職場の事態を冷静に分析する、意地を張るよりここは折れた方が建設的等々。
こんな風にメタ認知を高めるには、セルフモニタリングとコントロールを繰り返し行うことが大切です。自分自身を観察し無意識的な言動を意識化する。なかなか難しいと感じるかもしれませんが、具体的には自分の思いや気持ちを紙に書き出してみたり、マインドフルネスに取り組んだりして、これまで自覚していなかった言動の癖やどんな感情にとらわれやすいかを自己観察します。そうして得られた気づきをもとに、より自分のありたい方向へ、どんな場面でどんな振る舞いができれば適切かを考えて調整していく。そんな試行錯誤の繰り返しが、自分の成長に繋がるのです。
日常のさまざまな場面で、その場その時の感情に巻き込まれて自分を見失うことがなければ、自分自身の心も対人関係も安定するはずです。ぜひセルフモニタリングから始めてみませんか。
(御池メンタルサポートセンター 臨床心理士 内田千智)