私は臨床心理士の資格を取得し、カウンセラーとしての業務歴は7年目となります。比較的珍しい経歴かもしれませんが、前職は航空機地上支援作業と呼ばれる空港業務に従事していました。オレンジ色をした卓球のラケットのような“パドル”を使い、到着航空機の誘導を行うマーシャラーをはじめ、事務所内での機体バランス計算やパイロットとの無線通信業務にも携わりました。定期訓練の一環として、定期便の操縦室(コックピット)に搭乗し、パイロットの操縦や地上から送信した情報の使われ方について観察するプログラムもありました(飛行機好きの方にとっては、羨ましい訓練かもしれませんね)。
当時は、後に自分がカウンセラーに転身することになろうとは思ってもいませんでしたが、この搭乗訓練の際に最も印象に残っていたことは、パイロットのコミュニケーションでした。通常、機長が機体の操縦操作を、副操縦士が航空管制官との無線通信を行う役割分担で飛行が計画されます。管制官から指示された高度や進路を飛行することができているかダブルチェックすることは当然のことですが、各飛行段階で異常が生じた際にはどのような対応を行うかなど、機長の主導のもと適切なタイミングで細やかな方針共有がなされていました。また、副操縦士は疑問や意見があれば忌憚なく進言し、ミスの発生防止や円滑な運航の基礎が築かれていました。例えば、「機長は操作を誤っているようだけれども、今日は不機嫌そうだから指摘しにくいなぁ…」といった心理的抵抗は、防ぐことのできるミスを見過ごすこととなり、危険を阻止するチャンスを逃すことにつながります。
これは、一般企業の研修でもテーマにされる「アサーティブコミュニケーション」の概念であると言えます。「さわやかな自己表現」などと訳されますが、自分の意見を適切に表明し、仕事や家庭生活の質の向上に役立てようとするものです。職場で家庭で、「さわやかな自己表現」ができていらっしゃいますでしょうか。遠慮して言えずじまいになることが多い、ついつい相手を非難してしまいがち…。
この機会に、日頃のコミュニケーションを見直してみてはいかがでしょうか。
(御池メンタルサポートセンター 臨床心理士 松尾哲朗)