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コラム

役立つアドバイス

暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったもので、秋分の日を過ぎたあたりからすっかり秋の空になりました。日も少しずつ短くなってきたので、この夜長を読書でもして過ごそうかと、最近復活した某書店に行ってみました。文庫本を選んだ後、専門書コーナーをのぞいて見ると【カウンセリング】に関する本がたくさん並んでいました。
平積みされている本を眺めながら、以前人事担当の方から、メンタル不調の方とのやりとりで対処に困りカウンセリングに関する本を読んでみたところ、「『カウンセリングでは安易なアドバイスはしません』というような内容が書いてあり、何を話したらいいのかわからなくなってしまった」という話を聞いたことを思い出しました。確かにこの内容に一理はあるようにも思われますが、実際のカウンセリングの場面では具体的なアドバイスがとても役に立つと感じることもあります。それでは、両者の間にはどのような差があるのでしょうか。
これは、カウンセリングという場面だから起こっているわけではありません。皆さんも、部下や後輩にアドバイスをした時に、ある人にはとても役立つけれど、ある人はそのアドバイスを生かせていないと感じることはありませんか?このような場合、後者の理解が悪いのではなく、そのアドバイスを生かすための準備ができていないと考えるのが自然なのかもしれません。例えば、算数の授業では掛け算をしっかりと身につけてから、割り算を学びます。なぜなら、掛け算を理解することで割り算の意味が理解しやすくなるからです。掛け算をとばして割り算を学ぼうと思ってもそれはとても難しいことなのです。そこで、割り算がなかなか理解しにくいときに、やみくもに割り算の練習をしたり、割り算の意味について考えるよりも、もう一度掛け算を復習してみることのほうがずっと役に立つこともあります。
つまり、カウンセリングの場面に限らず、マネジメントやコミュニケーションにおいてもアドバイスをするかしないかということよりも、重要なのは相手にとってそのアドバイスが役に立っているのかどうかを見定め、役に立っていなさそうであれば、どのようなアドバイスならば役に立つのか、あるいはアドバイスは必要なく見守ることが役に立つのかなどについてじっくりと話をしてみることが、結果としてより有効なアドバイスのヒントになるはずです。
ゆっくりと話ができるのであれば梶井基次郎が、あの日なぜ檸檬を置いて店を出ていくことを考えたのか聴いてみたいと考えながら京極を下る秋の夕暮れでした。

(御池保健センター 臨床心理士 内田 陽之)