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コラム

対人関係を円滑にする秘訣

私たちの感情や行動パターンに大きな影響を与えるものの中に「思考」があります。この思考の持つ力はとても強力で、物事がうまく運ばないときや不快な感情になるときなどは、気付かぬうちに“思考の操り人形”になっているかもしれません。

私たちは通常、「事象Aは事象Bの原因である。」というように矢印が一方通行(A→B)の考え方をする習性があり、これを直線的思考といいます。たとえば、「子どもが反抗的なので、親が厳しく叱る。」というような場合です。

一方、「事象Aは事象Bの原因でもあり、結果でもある」というように、双方向的な見方(A⇄B)をすることを円環的思考といいます。円環的思考で先程のたとえをみてみると、「子どもが反抗的なので、親が厳しく叱る。」とも、「親が厳しく叱るため、子どもが反抗的になる。」ともみることができます。ここで大切なのは、どちらかが正解でどちらかが間違いというわけではなく、いずれの見方もできるということです。

対人関係は、「相互作用」であるものの、私たちは、ひとたび、思考の操り人形になってしまうと、一方向的な見方で状況を捉えてしまうようになります。とりわけ、職場や家庭といった身近な関係の中では、似たような状況が繰り返されるため、より直線的思考になりがちです。たとえば、仕事がうまく運ばない時に「○○さんが~してくれないから、うまくいかなくなる。」という思考を保持していると、「~してくれない〇〇さんが悪い。」というように他責的な思考が強化されやすくなります。しかし、このような時に「〇〇さんが~しにくい環境に問題があるのではないか?」と視点を変えて状況を広く捉え直せると、思いがけないブレイクスルーが見えてくるかもしれません。

円観的思考で物事を捉える癖がつくと、対人関係における不要な衝突やストレスの低減にもつながります。相手を直接的に変えることは難しいですが、うまくいくようにシステム(環境)を変えたり、新たに構築したりすることはできます。対人関係では、原因が明確であるとは限らず、プログラミングのように特定の原因を修正すれば、正しく作動する訳ではありません。日頃から自分と他者に「基準の違い」があることを意識しておくことが、対人関係を円滑にする秘訣です。

(御池メンタルサポートセンター 臨床心理士 浦野幸一郎)