生保会社が実施する、新入社員を対象とした「理想の上司」アンケート調査結果が毎年2月に発表されます。昨年度の男女の1位と選出の理由は、内村光良さんが「親しみやすい」「優しい」、水ト麻美さんが「親しみやすい」「明るい」となっています。新入社員の段階で必要とする上司のサポートは、先ず、職務に関する指示や助言をわかりやすく気持ちよく得られることなのでしょう。必要な情報を過度の気遣いをせず、日常の円滑なコミュニケーションの中でタイムリーに得るために、新入社員が求める思いは頷ける感があります。
一方、上司は新入社員に何を求めるのでしょうか。調査の番外編、社会人が選ぶ「理想の新入社員」では大谷翔平さん、浜田美波さんが選ばれ、「謙虚さがある」「明るく朗らか」「覚えたことを次に活かせる」が期待されています。上司・先輩の側は、「謙虚」に「明るく」助言を聞くスタンスに止まらず、助言を理解した速やかな実行を期待しているようです。コロナ状況下、今までにない発想を求められる繁忙な上司の立場なら、これも頷ける結果です。
上司の期待は、新入社員の期待より、少し先の段階にあるようです。新入社員は上司に話ができる雰囲気を求め、仕事に関する疑問や困りごとを先ずは聞いてほしい思いが強そうです。上司からすれば、時間を割き熱量を持って部下に接したのに思うように伝わらず、行き違いに終わるかもしれません。教えること、伝えることの勘所はどこにあるのでしょう?
日本ラグビー界のリーダー、故平尾誠二さんは「発信機ではなく受信機の精度を上げる」と言います。多くの指導者を見た経験から、選手が思うように動かない、成長しない時は、教える側の理論や内容に起因するより、教えられる側の理解力や消化力に問題のあるケースの方が圧倒的に多く、教えられる側の受信機の精度を高める事がポイントであると。そのためには「こちら側の受信機の性能を上げる」。「先ずは選手の話をよく聞く。選手がこの監督はよく話を聞いてくれるとわかれば、選手の方が色々話をするようになる。その話を流さず聞き、伝えたい部分にかすったと思ったら敏感に反応して、そこに選手の興味を集中させる。こうした手順を踏まずに、こんな知識を教えてやろうと肩に力を入れても相手の心には届かない」。アンケートで新入社員が上司に求めるイメージに呼応するあり方に思えます。
(御池メンタルサポートセンター 臨床心理士 岸田敬子)