平成のスタートは「24時間戦えますか?」というキャッチコピーとともに幕を開けました。
30年経つと時代も考え方も随分変わります。令和のスタートは働き方改革のスタートでもあります。まだ始まったばかりですので個人的には自身の働き方が大きく変わったという実感はありませんが、「労働者にとって働きやすく」なっていくという目的は大いに歓迎すべきことです。
しかし、報道などで取り上げられる「働きやすさ」は休暇を増やしたり、残業時間を削減したりといった目に見えるものばかりに注目が集まっていることに若干の寂しさも感じます。我々は年間で2000時間(フルタイム労働者の平均労働時間)も働いています。せっかくですから、この時間の「働きやすさ」にも着目することは残業時間を減らすことよりも大切なことなのかもしれません。
これまでより休暇を多く取得したり、残業時間を減らすために必要なのは仕事の効率化であると言われます。それでは仕事を効率的にこなすためには何が必要なのでしょうか?それは無駄をなくすことです。そのための一つの考え方は、コミュニケーションと情報処理を減らすことにあります。つまり、周囲のことを気にせずに自分のペースで、自分のルールの中で仕事を進めていくことが究極の効率化であるとも言えます。しかし、この行きつく先は隣の席の人の残業がどうなっているのか、休暇が取れているのかを考えずに、自分の休暇や残業時間だけのことを考えて働いていくことにつながっていくのかもしれません。果たしてそれは働きやすい職場だと言えるでしょうか?
組織に所属している以上、たった一人で完了するという仕事はほとんどありません。どうしても人に助けを求めたり、支え合ったりする必要も出てきます。もちろん、助けてもらえばその人にお返しするという『ペイバック※』の考え方は多くの人が持っているでしょうが、これからの働きやすさを支えるのは『ペイフォワード※』の考え方かもしれません。自分が誰かにしてもらったことを、その人に返すのではなく、職場の状況を見てその時困っている人に自分のできることを渡していくこと、そしてそのことに見返りを求めないことで、その優しさの風土が職場に広がり、新しい時代の働きやすさにつながっていくかもしれません。
周りを見渡して忙しそうにしている人や、困った顔をしている人にまずは「もう8時間も働いていますよ。お手伝いしましょうか」と声をかけてみてはいかがでしょう。
(御池メンタルサポートセンター 臨床心理士 内田陽之)