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コラム

怒りの陰に隠れた本当の気持ちは?

怒りというのは、不当な扱いや理不尽な言動にさらされた時、人が感じる自然な感情です。心理学の世界では、怒りは第二感情であると言われています。第二感情とは、二番目に出てくる感情のこと。怒って当然と思える出来事に対し、実は怒りよりも先に生じている感情があるということです。ということは、直前に生じた感情が第一感情になりますが、ほとんどの場合それは怒りの裏に隠れて自覚されません。

一体どんな感情なのでしょうか。それは大抵、悲しさ、寂しさ、恥ずかしさ、不安、困惑、恐れ…そういうネガティブな種類のものといえるでしょう。例えば、部下に頼んでおいた仕事が期限になっても提出されない。こんな時「業務の期限は守るべきだ!」と怒るのも無理はありません。また、子どもの帰宅が遅いことにイライラし、帰って来た子の顔を見るなり「何時だと思っているの!」「一体どこに行っていたの?!」と叱りつけてしまうこともあるでしょう。

では、これらの怒りの前にある第一感情はどんなものでしょうか?上司の場合「部下への期待がかなわず悲しい」、あるいは「段取りが狂って困った」という気持ち。子どもには「何かあったのではないかと心配だった」、そんな気持ちが働いているのではないでしょうか。この悲しいや困った、心配などが第一感情です。これを感じたことによって、怒りが発生したのです。

締め切りや門限という守るべき約束を破られたのだから、怒りが湧くのは自然なことです。ただ、本心であるはずの第一感情に比べて怒りのエネルギーはとても強いため、相手に伝わるのは第二感情の方だけになりがちです。「期待していたけれど、今回は残念」「何かあったらどうしようと、心配で不安だった」そんな本当の気持ちを置き去りにしたまま、怒りだけが伝わってしまうと、大切な人間関係が損なわれることにもなりかねません。

自分にとって守るべきルールを破った相手に怒りをぶつけるその前に、ほんの少し間をおいて、怒りの陰に隠れているはずの第一感情を見つめようとしてみてください。自分自身の思いや願いに気付くことができれば、怒りをコントロールしやすくなるはずです。少しだけ落ち着いて、本当に伝えたい気持ちを適切な言葉で伝えられたら、身近な人達とのコミュニケーションがより良いものになるのではないでしょうか。

(御池メンタルサポートセンター 臨床心理士 内田 千智)